第12号(1997/12/10)HP掲載記事
不登校と通知票
相談所だより 第12号(1997・12・10)より
☆☆質問1☆☆
登校拒否の子どもの
---保健室・相談室・校長室登校などを含む---
「通知簿」の書き方について
学校へ行きたいのに、緊張と不安が強くて、登校できないで苦しんでいる(小学校四年生女子)子どもを
担任しています。
初めて、登校拒否の子どもを担任したので「通知簿」の書き方に自信がなくて悩みました。友人の教師か
ら、相談所で教えていただいた内容を学んで書きました。
私の書いた「通知簿」が子どもを励ますものだったかどうか気になっております。
二学期になってから、担任している子どもは「学級お楽しみ会」に参加したし、一日だけ登校して、保健
室で過ごしました。
先日(土曜日の午後)家庭訪問して、トランプでしばらく遊んでから、
「先生の車でドライブしてみない」
と呼びかけたら、
「行く、行く」
と元気よく答えて、躊躇しないで車に乗りました。
一学期に同じ呼びかけをした時には、お母さんが側にいて励ましてくれたのに行けませんでした。にこに
こしながら躊躇しないで車に乗りこむ子どもを見ながら、私は嬉しくなって涙が出てきました。元気に玄関
を出る二人に気づいて出てこられた、お母さんに、
「先生とドライブに行ってくる」
と大きな声で言いながら手を振っていました。お母さんも私に何回も頭を下げながら泣いておられました。
後日、お母さんと二人だけの時、
「子どもが車へ乗っただけで、二人とも泣くっておかしいかな」
と話し合いました。
一時間ほどのドライブで子どもは、いつもよりも、よどみなく色々しゃべりました。
「先生、もしかしたら、三学期になったら、保健室へなら行けるかもわからん」
と、ぽつりと語りました。私は、突然だったので、びっくりして、あせって、ドキドキしながら、
「あわてなくてもいいのよ」
と答えました。
だんだん元気になっていくのを感じて、楽しく思っています。教室で勉強できない保健室登校の場合も含
めて、通知簿の書き方について教えてください。
できれば具体的な実践例も教えていただければ嬉しく思います。
☆☆回答☆☆
一、通知簿は子どもへの励まし
通知簿は、基本的には「子どもの学校における生活と学習の様子を父母に知らせ、教師からの子どもへの
励まし」という意味を持っています。
各教科学習の到達点を評価するという面もありますし、指導要録との関係もありますし、その学校の申し
合わせもありますので、それらを考慮して書くことが求められます。
しかし、通知簿を見た子どもが「自信を失い、やる気(意欲)をなくしてしまうような内容」ではなくて
「これから頑張ろうという意欲を呼び起こし、励ましを与える内容」が望ましい通知簿だといえます。
文部省も、これらのことを考慮して、通信簿(通知簿)の形式や書き方について、次のような見解を示し
、行政指導しています。
一、通信簿は、児童生徒の学校における学習や生活の状況を保護者に知らせることを目的として、各学校
が作成するものである。
二、通信簿の様式等については、全国的な基準はない。
三、通信簿の様式等は、十分慎重な検討に基づいて、校長の責任のもとに定めるべきである。
とし、「関係例規」として「小学校児童指導要録、中学校生徒指導要録並びに盲学校、、聾学校及び養護学
校の小学部児童指導要録及び中学部生徒指導要録の改訂について」(初等中等教育局長通知)の「実例教務
提要・教務必携」で次のように説明しています。
★ 通信簿の目的・性格
一般に通信簿、通知表等と呼ばれている表簿は、児童生徒の学校における学習や生活の状況を保護者に知
らせ、家庭の理解と協力によって学校の教育指導の効果を一層高めようとする目的で作成されるものです。
★ 通信簿の法的根拠
……国の法令には何の定めもなく、全国的な基準も設けられていません。……通信簿の作成・発行するか
、しないかも、その様式も、自由に工夫してよいものです……
★ 通信簿の様式等
このように通信簿の様式等は各学校で自由に定めてよいも のですから、教師の一人一人が通信簿の評価
方法、評価の観点、項目、全体としての様式などに関心をもち、その改善に取り組むことは何ら差し支えな
いし、むしろ望ましいことです。………… 指導要録の様式等を通信簿に転 用することは適切ではない…
…一人一人の可能性について適切に評価し、その後の学習を支援することに役立つようにする観点から、通
信簿の記載内容や方法、様式等について工夫改善することが必要である……
右に示した文部省の見解も、学校の教師が、子どもの様子を父母に知らせ(知らせる方法はいろいろある
が)何よりも子どもを励ますことの大切さを認めています。
通知簿は、子どもが、やる気や意欲を呼びおこす励ましを与えるものにしたいものです。
二、不登校の子どもへの通知簿
1、子どもと親の切なさ
教育相談の中で「通知簿」のことを、気にしていない親はいません。
子どもが学校へ行っていないので、先生が学習成績を評価できないことは、親もよく知っておられますの
で、一般的な通知簿への期待は持っていません。
通知簿を見た子どもが、通知簿によって、かえって落ち込んで苦しむのではないか。回復へのいとなみに
悪い影響が出るのではないか、と心配して、先生が、どんな書き方をしてくださるかを気にしているのです
。
親同士の交流で、登校拒否児をかかえた先輩の親から、
「うちの子は、通知簿を見て『こんなもん見やんだらよかった』と言って、よけい元気をなくした」
とか、
「通知簿見てから、しばらくしたら破り捨てた。その通知簿は、全教科『1』がついていた。その後一週
間ほど、無理を言うし、イラツキが激しくて弱った」
とか、
「うちの子は、通知簿を見て『キャンプへ行ったり、何かしたことを褒めてくれてる。あの先生、ぼくの
こと、よう知ってるなあ』と言って喜んだ」
など、いろいろな反応を聞いているので、
「うちの子の担任の先生は、どんな通知簿を書いてくれるのだろうか」
と心配している親が多いのです。
2、回復のいとなみを励ます通知簿を
登校拒否で落ち込んだ子どもは、親や家族が共感と受容で関わり、担任や関係者の関わりで、だんだんパ
ワーをと取り戻してきます。
自分くずし・自分づくりのための「小さな冒険」(家の中で好きなことをして、イラダチがなくなる)「
中ぐらいの冒険」(好きな友達と遊べるなど)「大きな冒険」(登校拒否の子どもが大勢集まるキャンプに
行くなど)を積み重ねて回復していきます。
登校拒否の子どもへの通知簿は、次にあげる二つの視点を考慮したいものです。
@本人は、学校を休むことや、勉強をしていないことについての、罪悪感・自責・負目を感じて悩んでい
るので、登校や勉強へのこだわりをはずし、安心して休めるように考慮すること。
但し、無理することなく、本人が選んで学習をしている場合は、適切な評価と励ましをおくること。
A学校を休んで、家で色々なことをしたり、考えて、さまざまな発言をしたりする(回復の状況によって
、外へ出たり家族以外の人々との交流もできる)など、その子が選んで動いた言動を、値打ちのあることと
して評価し励ますこと。
この二つのことを考慮した内容であれば、通知簿を読んだ本人が、学校を休んでいることについてのこだ
わりが薄らぎ今、過ごしている生活に対する励ましを通じて「今のままの自分で大丈夫だ」と思える自己肯
定感を太らせることができます。
3、学校の合意との関係
それぞれの学校には、以前から合意されている「通知簿の付け方」(例えば試験を受けていない子どもに
は「1」をつけるなど)があると思います。
できれば、職員会で話し合い、
「不登校の子どもの場合は、一般的な評価をしないで、本人を励ますための通知簿に変える」
という合意にもと
いてその内容を検討し、創意工夫することが大切だと考えています。
合意することが困難なときは、担任の判断で(校長さんと事前打ち合せで了解を得て)「以前からの合意
にもとづいて記入し、(例えば、すべて「1」につける場合であれば)記入事項を赤ペンで丸じるしでかこ
み、
「全部 〃1〃をつけています。休んでいて、分からないので仮につけただけです。赤ペンで、かこんで
いるのは仮につけたというしるしです。
あなたは、勉強する力があるから、もっと、いい成績になるはずです。元気になって学校へ来れるように
なるまで、仮につけておきます。
あなたへの本当の通知簿は、はさんでいる別の用紙に書きましたから、それを見てください」
というコメントをつけて、
「あなたは、学校へは来れなかったけれど、休んだ一学期の間に、次のような値打ちにあることを、たく
さんしてきました。先生が感動していることを書きます」
と呼びかけて、本人が休んでいる間に動いたことや学んだことを親から聞き取って、(1)(2)と箇条書
きでもいいから、その子の言動で評価できることを書いて励ますことです。
4、小・中学校二つの事例
ご質問の中で「実践例も教えてほしい」とのことでしたので、本人が通知簿を見て、とても喜び、その様
子を見て親も嬉しく思い、親が読んで「涙が出てきた」と語ってくれた通知簿を掲載しました。参考にして
いただきたいと思います。
この事例は、本人も親も、
「これを参考にして、子どもを励ます通知簿を書いてあげてほしい、そのために役立つのなら掲載して下
さい」
と、お許しをいただき、その学校からも、
「親子が了解されるのなら結構です」
と、お許しを得ましたので、学校名と本人の名前を秘して掲載しました。紙面の都合で、通知簿全体は省略
し、一部だけ掲載しましたので参考にして下さい。
−−−二人の子どものようす−−−
★中学一年生(女子)は、一学期は入学式と予防接種などで計四日、二学期は身体測定と運動会の練習と
当日などで計七日だけ登校、運動会は種目を選んで参加、テスト問題や夏の友や作文、班日記等を書いたり
しました。
★小学六年生(女子)は、教室へは入れず、校長室登校をしています。遠足や、運動会などの行事に参加
している子どもです。